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東京地方裁判所 平成4年(ワ)19639号 判決 1993年5月19日

主文

一、本件訴えを却下する。

二、訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一、原告の請求

被告は、原告に対し、金一〇一九万三二七二円及び内金一六一万三〇〇〇円に対する昭和六〇年二月一六日から、及び内金八五八万〇二七二円に対する同年四月六日からそれぞれ支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

第二、当事者の主張

一、請求原因事実は、別紙のとおりであり、当事者間に争いがない。

二、被告の本案前の抗弁

原告は、被告に対し、昭和六二年九月一八日、本訴請求債権について支払命令の申立てをし、同年一一月三日ころ支払命令が確定した(当事者間に争いがない。)。

したがって、既に支払命令が確定している以上、本件訴えには訴えの利益がない。

三、被告の本案前の抗弁に対する原告の答弁

被告の本案前の抗弁を争う。原告には時効を中断する必要があるので、本件訴えには訴えの利益がある。

第三、判断

一、請求原因事実には争いがないから、原告は、被告に対してその主張する求償金債権を有する。

二、本訴請求債権についての支払命令が昭和六二年一一月三日ころ確定したことは、当事者間に争いがない。確定した支払命令は、確定判決と同一の効力を有する(民事訴訟法四四三条)。したがって、これと同一の債権について更に給付を求める訴えには原則として訴えの利益がないが、時効を中断するために必要がある場合は、その例外となる(なお、本件訴えは、原告が平成四年一〇月一六日に被告に対して再度の支払命令を申し立て、被告の異議により督促手続から訴訟に移転したものである。)。

右先行の支払命令の確定により、本訴請求債権についての消滅時効は、確定の時から更に進行を始め(民法一五七条二項)、その期間は一〇年である(同法一七四条の二第一項)から、平成九年一一月二日ころまでは時効が完成しない。したがって、本件の口頭弁論終結時(平成五年四月二八日)から時効完成までには、約四年半の期間がある。そうすると、本件訴えは、時効中断のためには性急に過ぎるものといわざるを得ず、訴えの利益を欠くものというべきである。

もっとも、被告の債務は連帯保証による債務であり、連帯保証人に対する確定判決による時効中断の効力は主たる債務者にも及ぶ(民法四五八条、四三四条)が、主たる債務者の時効が短期消滅時効である場合には、確定判決はその時効期間には影響しないという判例がある(大審院昭和二〇年九月一〇日判決・民集二四巻八二頁)。原告は、これをおもんぱかって、本件の主たる債務者である株式会社富士玩具の債務について恐らくは五年の短期消滅時効(商法五二二条)を再度中断するために、本件訴え(督促手続から移行した訴訟)を提起したのであるかもしれないが、その目的のためには、端的に主たる債務者である株式会社富士玩具に対して支払命令の申立て、訴えの提起その他の時効中断のための方途を講ずれば足りるはずであり、本件において、これをしないで連帯保証人である被告に対する再度の請求によらざるを得ない事情があることの立証はない。

三、したがって、本件訴えは、訴えの利益を欠くもので不適法であるから、却下を免れない。

請求の原因

一、訴外株式会社富士玩具(以下「訴外会社」という)は、左記のとおり金員を借り受けた(以下、左記の債務を各々、債務(一)、債務(二)、債務(三)という)。

(一)1. 借入金融機関 訴外日興信用金庫(以下、「訴外日興」という)

2. 借受金額 金五〇〇万円

3. 借受日 昭和五八年九月二八日

4. 最終弁済期限 昭和六二年三月二七日

5. 弁済方法 昭和五九年四月二〇日を第一回とし、以後毎月二〇日限り金一三万九、〇〇〇円宛分割弁済し右期限に残額を完済する。

6. 利息は年七・三%、損害金は年一八・二五%の割合とする。

7. 特約 手形交換所の取引停止処分を受けたときは当然に期限の利益を失い直ちに債務を弁済する。

(二)1. 借入金融機関 訴外王子信用金庫(以下、「訴外王子」という)

2. 借受金額 金四〇〇万円

3. 借受日 昭和五九年二月二〇日

4. 最終弁済期限 昭和五九年八月一九日

5. 弁済方法 昭和五九年七月一九日を第一回とし、以後毎月一九日限り金二〇〇万円宛分割弁済し右期限に残額を完済する。

6. 利息は年七・一%、損害金は年一四・五%の割合とする。

7. 特約 前記(一)と同じ。

(三)1. 借入金融機関 訴外王子信用金庫(以下、「訴外王子」という)

2. 借受金額 金五〇〇万円

3. 借受日 昭和五八年一〇月三一日

4. 最終弁済期限 昭和六三年四月三〇日

5. 弁済方法 昭和五九年五月三〇日を第一回とし、以後毎月三〇日限り金一〇万四、〇〇〇円宛分割弁済し右期限に残額を完済する。

6. 利息は年七・三%、損害金は年一四・五%の割合とする。

7. 特約 前記(一)と同じ。

二、原告は、訴外会社から前項(一)及び(三)記載の各借受金債務について、左記のとおり信用保証の委託申込を受けたので、これを承諾し、各金融機関に対して訴外会社と連帯して保証する旨を約束した。

1. 債務(一)について

訴外会社の委託申込日

昭和五八年九月一二日

訴外日興に対する原告の保証承諾日

昭和五八年九月一七日

2. 債務(二)について

訴外会社の委託申込日

昭和五九年二月八日

訴外王子に対する原告の保証承諾日

昭和五九年二月一五日

3. 債務(三)について

訴外会社の委託申込日

昭和五八年一〇月二〇日

訴外王子に対する原告の保証承諾日

昭和五八年一〇月二六日

三、前項の各信用保証委託契約にあたり、原告は訴外会社及び被告と次の約束をした。

(1) 訴外会社は、原告が将来取得することある求償金債権につき、その取得の日の翌日から年一八・二五%の割合による損害金を付加して支払う。

(2) 被告は右求償金債務につき原告に対して連帯保証する。

四、ところが、訴外会社は債務(一)及び債務(三)について、昭和五九年一一月三〇日に東京手形交換所の取引停止処分を受けたので、当然に期限の利益を失い、各々の債務について直ちに債務を弁済する責任を負うに至った。

五、原告は第二項記載の各信用保証債務の履行を各金融機関から請求され、

1. 債務(一)については、昭和六〇年二月一五日に残元金五〇〇万〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和五九年九月二六日から昭和六〇年一月一六日までの約定利率以内の年七・三%の割合による利息・損害金一一万三、〇〇〇円との合計金五一一万三、〇〇〇円を訴外日興に対して支払い、

2. 債務(二)については、昭和六〇年四月五日に残元金三九〇万〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和五九年九月二七日から昭和六〇年一月二九日までの約定利率以内の年七・一%の割合による利息・損害金九万四、八二七円との合計金三九九万四、八二七円を訴外王子に対して支払い、

3. 債務(三)については、昭和六〇年四月五日に残元金四四八万〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和五九年一〇月一日から昭和六〇年一月二九日までの約定利率以内の年七・一%の割合による利息・損害金一〇万五、四四五円との合計金四五八万五、四四五円を訴外王子に対して支払い、

各々の債務について右同日に右同額の求償金債権を訴外会社及び被告に対して取得した。

六、その後、被告は原告に対して金三五〇万円を弁済し、合意により前記債務(一)に係る求償金債務の元本に充当した。

七、それ以降、被告は原告に対して全くその支払いをしない。

八、よって、原告は被告に対して右の各求償金債権につきその残元本合計金一、〇一九万三、二七二円及び右各求償金債権取得の日の翌日から各々支払済みまでの第三項記載の約定以内の年一四・〇〇%の割合による遅延損害金の支払を求めるための本訴に及ぶ次第である。

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